INTERVIEW 2020.3.2

「ユーザーはパートナー」音楽ディストリビューションサービスの作り方

TuneCore Japanは、個人の音楽配信を可能にするサービス

「ユーザーとはパートナーのような存在でありたい」と口を揃えて話す、プロダクトマネージャー の Yuya Yamamoto(以下、Yuya )とエンジニアの Yohei Watanabe(以下、Yohei )。どのようにユーザーとの関係性を築き、サービスを作っているのか、話を聞いてみた。

 

ーー TuneCore Japan とはどのようなサービスですか?

Yuya:音楽のディストリビューションサービス、簡単に言うと、音楽を世界中に流通させるサービスです。アーティストやクリエイターが作った音楽を、世界185ヵ国・約45のストアへ配信できます(2020年2月現在)。Apple Music や Spotify へ直接個人では音楽を配信できないのですが、TuneCore Japan を通すことで配信が可能です。また、そのように簡単に世界へ音楽を届けることができるだけでなく、再生回数やダウンロード数に応じた収益は100%還元される仕組みとなっています。

つまり、ファンとしても Apple Music や Spotify などのストリーミングサービスで音楽を聴くこと自体が、実はそのまま自分が応援するアーティストをサポートすることにつながっているんです。アーティストはその収益を資金にし、また新たな制作やチャレンジができるかもしれません。そういった今の時代ならではのアーティストとファンのエコシステムをサポートしているサービスとも言えるかもしれません。

また、煩雑な事務作業を簡単にできる機能もそなえています。配信ストアの登録作業がシンプルにできたり、配信した後の売上を関係者で自動分配ができたり、リリースした作品へのリンク集が作れたり、アーティストが楽曲制作以外にやらなければならないことは、できる限りシステムに任せて簡単にできるようにしています。

―どれくらいのアーティストに使われているんですか?

Yuya:サービスの規模を「アーティストにどれだけの金額を還元しているか」としてお答えするならば、楽曲の売上から配信ストアの手数料を除いた収益の100%をアーティストに還元するのが TuneCore Japan の大きな特徴で、2018年は年間25億円をアーティストやクリエイターに還元しました。

おかげさまで還元額は順調に伸びていて、今だと月間3億円を超えてきています。

 

コンセプトは All For Independence 。常にアーティストに寄り添う▲マーケティング・プロダクトマネージャー Yuya Yamamoto

ーー TuneCore Japan を作るにあたって、お二人は何を担っているんですか?

Yuya:現在はプロダクト開発の責任者 ( Product Manager ) に近い役割を担っています。日々取り巻く環境や価値観は繊細に変わっていくと思うんですけど、今ってどうなんだっけ?ということを考えたり調べたり、アーティストと交流する場として Artist Lounge を開催してユーザーと対話したり、そこから思いついたアイデアを企画にしてエンジニア・デザイナーと共にプロダクトに落とし込んだりしています。

Yohei:僕は、エンジニアです。主にサーバーサイドの開発業務がメインではありますが、最近はプロジェクト全体をまとめる EM(Engineering Manager )のような役割も担っています。新しい企画を検討する時は、Yuya からどんなことをやりたいか話を聞いて、どう開発できるかをエンジニア視点で考え、一緒に企画を作り上げていきます。

――「ユーザーとはパートナーのように」とのことですが、具体的にサービス設計、展開においてはどういったところを重視していますか?

Yuya:TuneCore Japan のスタッフは、サービスとして All For Independence(すべてはインディペンデンスのために)というコンセプトを持っています。All が僕たちで、Independence がユーザー(=アーティスト)です。

作品作りをしたり、それを信じて支える方々がいて、彼らが些末なことに煩わされず、単純に作品作りに集中できる環境を少しでも整えられたらなと考えています。

例えばお金。アーティストやクリエイターが活動を続けるためには、継続するためにもお金が必要になっくると思います。でも楽曲で売り上げを得るって、実はすごく手間もかかることで。

TuneCore Japan のようなサービスを使うことで、最低限の手間で楽曲の収益を得られて、請求や分配とかの事務作業も簡単にできたら、すごくいいですよね。そうして得た時間やお金でアーティストがまた面白いことをしてくれたら、僕も楽しめるしみんなももっと楽しめるかもしれない。

Yohei:TuneCore Japan はチームの人数がそれほど多くないので、自分が作りたいと思った機能はどんどん提案できますし、そこで作ったものが世に出ます。自分がアーティストの役に立つと思って頑張って作れば、それがあっという間に現実になるというシンプルさはありますね。

――「アーティストを支える仕事をしたい」と思って音楽業界に入っても、理想と現実の違いに苦しむ人も多いと聞きます。就く仕事や入る会社によってはアーティストに寄り添うのが難しいとか。

Yuya:例えば、アーティストのマネージメントだったりチームでの仕事で、アーティスト本人が「こうやりたい」と言っても色々なことが関係してて実現できない、時に望まないことを実行しなきゃいけないとか、そういったケースを耳にすることがあります。

個人的には、ものを作る人たちとそれを支える人たちって対等で、そこに優劣はないと思うんですよね。むしろ表裏一体というか、循環しているもので。そこにはもちろんリスナーも含まれると思いますし、アーティストと事務所、レーベル、配信ストア、僕らのようなプラットフォームやサービスもそうです。今の時代、ほんの少しだけでもそこを意識することで、難しいとかもありますけど、いい方向に向かって行ったり、前に進めるのかなと思います。

TuneCore Japan は、寄り添うというよりはお互い対等にちゃんと意見して、「もっといい社会を作っていこうよ」というスタンスです。シンプルに、もっといいやり方はあると思うので。

 

自分も配信経験があるからこそ、ユーザー視点の開発ができる

――これまでに作った機能について教えてください。

Yuya:例えば、LinkCore ですかね。LinkCore は、アーティストが曲を配信したときに様々なストアへ誘導する URL を自動生成できるサービスです。

複数のストアに配信していると、各サービスの URL を告知するのが大変なんです。LinkCore を使えば、各ストアへのリンクがまとまったページをパッと生成して、シェアできます。リスナーとしてもすぐに自分が使ってるサービスに行けて楽ちんです。▲ LinkCore で生成されるページのイメージ

アーティストやレーベルと話すとき、「告知は大事」という話がよく出るんです。ただ、そういうところに疎いアーティストもいるし、大事だと思っていても「どうやったらいいの?」という人もいる。LinkCore はその人たちをサポートするために作りました。

遡ると、実はこのスマートリンクと呼ばれるものはグローバルではスタンダードで。ただすべてが自動で生成されていなかったりと、まだまだベターになる部分はあったので、そこを考えつつ「これは自分たちのユーザーにとってもあったら嬉しい機能なんじゃないか」と思って、開発を決めました。

Yohei:実は、自分もプライベートでバンドをやっていて。それを配信するのに TuneCore Japan を使っているのですが、LinkCore はぜひ作りたいと思いましたね。

Yuya:僕も DAW を触っていて、それで作った曲を配信しているので、ユーザーとして欲しかったというのもありましたね。

―― LinkCore の開発で大変だったことはありますか?

Yohei:LinkCore で生成されたページは、リスナーが楽曲に初めて触れるページになる可能性があります。要はそのアーティストが、SNS に「新しい曲をリリースしました」と LinkCore の URL を載せたら、その URL が入り口になるわけです。

ページの表示が遅かったり不具合があったら、それはアーティストにとって機会損失になりますよね。責任重大です。なので、いつもより強いサーバー環境を整えたり、端末ごとに表示する画像を切り替えたり、エンジニアとしてできることは色々やりました。

――お二人とも、ご自身で楽曲配信の経験があるとのことですが、その経験はサービスを作る上で影響はありますか?

Yuya:そうですね。ユーザーの体験を知っている上で作っているというのは大きいと思います。「ここはこうしたほうが使いやすい」というアイディアも経験から自然と出てくる。自分で料理を作って、自分で美味しいかなって味見するのに近いですかね。

Yohei:作る時に、自分が使う時のことを常に考えますね。僕は開発者ですけど、利用者側の視点で「あったらいいな」という機能を作ることは意識しています。

普通に開発していると、ユーザーから見た時の便利さ/不便さって見落としがちなんです。仕様に沿って作るのがエンジニアの基本的な仕事ですから。でも、自分が配信する側に立った時にどう使うかという視点で見ると、もう一気に画面が違って見えるんですよ。「この UI じゃダメだな」みたいな(笑)

土日にプライベートで曲を作ってアップロードする時に「これは使いづらいな」と思ったら、月曜日に「これ直していいですか?」と言って修正することもけっこうあります。

 

楽曲制作とプロダクト開発は似ている▲サーバーサイドエンジニア Yohei Watanabe

―― ちなみに TuneCore Japan のメンバーはみんな音楽を自分で作って配信した経験があるんですか?

Yohei:配信経験がない人もいますよ。音楽好きの度合いは人それぞれです。映画とかアニメが好きな人も多いですし。

Yuya:でも、音楽に限らず何かを作ることが好きな人は多いんじゃないですかね。TuneCore Japan というプロダクト開発も、単純にものづくりのうちの一つみたいな感覚はあると思います。

作って終わりじゃなくて、悩みながら未来を創る過程が楽しいというか。ただ仕事をするよりも、そんな感じの方がたぶん楽しいと思います。

Yohei:僕もとてもそれを感じてますね。仕事だけど、半分は趣味。力を抜いているというわけではなく、自分がやりたくてやっている意識が強いです。音楽を作るのもプロダクトを作るのも、基本的には似ているんです。ものが良ければ「いいね」と言ってもらえるし、よくないものを作ったり誰かの作ったものを真似したりすればバッシングされる。

――利用者であるアーティストから「いいね」と言ってもらっているのはどのようなところですか?

Yuya:TuneCore Japan を使ってくれているアーティストたちが世界中のチャートに入ったり、プレイリストでピックアップされたりする時は、「こんなこと、自分でもできるんだ」とすごく喜ばれます。僕らも嬉しいです。どんどん行こう!みたいな。

そういうのって今までは多くの人の力を借りないとできなかったと思うのですが、徐々に個人でもできる時代になってきましたね。

 

ものづくりをする人達のパートナーでありたい▲ LINE MUSIC と合同主催した Artist Lounge の様子

――最後に、TuneCore Japan は今後アーティスト達にとってどのような存在になっていきたいですか?

Yuya:音楽の流通サービスに留まらず、ものづくりをする人たちのパートナーのような存在として、彼らがいいものをどんどん作れる環境を提供していきたいですね。

その一環として、昨年は LINE MUSIC と合同主催で Artist Longe を5大都市で開催しました。そういうオフラインでの意見交換の場、コミュニケーションの場も増やすなど、楽曲の流通サポート以外のサポートも増やしていきたいです。

Yohei:たまに Yuya と話すのですが、「アーティスト自体が増えるといいよね」と思っています。

今は音楽を作るハードルはかなり低くなっていて、スマホでも作曲できる時代です。みんながどんどん音楽で表現して、表現することでお金をもらい、そのお金でもっともっと良いものを作っていく……そういう社会を実現するために、一緒に頑張れる人が TuneCore Japan に来てくれたら嬉しいですね。