INTERVIEW 2022.3.2

クリエイターの伴走者として走り続けるWanoの、これまでとこれから

“日本から世界へ、独創的なプロダクトを創る”ことをビジョンとして2008年4月に設立されたWano株式会社。創業から14年目を迎え、動画コンテンツのディストリビューションサービス「Video Kicks」、音楽コンテンツの流通サービス「TuneCore Japan」、ファッションアプリ「itSnap」といったオリジナルサービスを手掛け続け、クリエイターが世界へ羽ばたくための支援を行ってきました。

Wano株式会社の経営陣であり、主に事業開発を手掛けている、代表取締役の野田威一郎、取締役の谷本啓、田村鷹正の3人に「Wano」が生まれるまでと企業成長のもととなる事業開発にかける想い、将来のビジョンついて改めて語ってもらいました。

「自分のサービスを手掛けたい」という共通言語を持った5人がWanoを創業

Wanoの創業メンバーは、野田、谷本、田村を含む5人。今回対談してもらった3人が出会った場所は、前職のアドウェイズという広告会社でした。谷本曰く、初めて出会った時から野田は起業をすると言っていたのだそうです。

野田:
「もともと新卒の時から起業しようという思いはありました。大学生の時に個人事業主として印刷やデザインの仕事を請け負っていたのですが、一度失敗して負債を抱えた経験があります。会社に勤めてビジネスについてしっかり学ばないとダメだな、と思ってアドウェイズに入社しました。アドウェイズは当時最先端だったアフィリエイト(成果報酬型)広告を扱っているベンチャーで、人数も少なく、事業すべてを把握できる環境があり、起業に向けて勉強するには最高の環境でした。」

谷本:
「当時の野田は、デスクの両脇にスピーカーを置いていて、そのスピーカーから音楽を流して仕事をしていました。そんな人もちろん他にいなくて、変わった人だな、というのが最初の印象です(笑)。」

野田:
「もともと音楽が好きで、大学時代はクラブに入り浸っていたし働いていたので、アーティストやクリエイターの友達も多くて。将来的にはアドウェイズで学んだITの技術を、自分の好きなこと、エンタメや音楽の世界とつなげられたらおもしろいなと思っていました。」

当時のベンチャーには起業志望者が一定数いたものの、同業界で独立する人がほとんど。そんな中、広告会社の中でも独自のスタイルで働き、全く違うジャンルのエンタメ系で起業しようとしていた野田のような人間は珍しかったため、谷本は自然と野田に興味を持ち、仲を深めていきました。

谷本:
「2006年にアドウェイズが東証マザーズに上場し、自分もここでの仕事がひと段落したタイミングで、独立したいと考えるようになりました。野田と一緒で音楽が好きだったので、よく音楽の話をしていたのですが、メジャー音楽だけでなく、インディーズ音楽も世界中で誰もが聴けるようになればいいと話していましたね。」

どちらも大の音楽好きだったことから意気投合した二人は、本格的に起業に向けて仲間を探し始めます。

田村:
「アドウェイズ時代、谷本さんが上司で一緒に仕事をしていました。新卒入社した年はちょうど会社の成長期で、上場も経験し、自分自身も入社2年目には50人くらいの部署のマネジャーになって順風満帆な社会人生活を送っていたんです。でも、誰かが生み出したサービスを扱うのではなく、自分自身で何か生み出したいと思い始めた頃、野田さんと谷本さんが立ち上げようとしていたWanoに参加しないか、と誘ってもらいました。」

音楽に詳しいわけではなかったものの、エンタメ業界を変えたいという強い想いを持つ野田と谷本とだったら絶対に面白いことができる、直感でそう思った田村は、『対等な立場で入れてもらえるんだったらやりたい』と伝えて、取締役として参加することになりました。

そこに、アドウェイズでシステム開発をしていた加藤、野田の幼馴染で経理の仕事をしていた境が加わったことで、会社運営する上で欠けていたパズルのピースがカチッとはまり、Wanoを立ち上げる準備が加速していきます。

そして2008年、“自分のサービスを作りたい”という共通言語を持った創業メンバー5人が集結し、ITの力でエンタメ業界に革命を起こそうとするWanoが立ち上がりました。

Wano初期のオフィス
※初めてのオフィスは、新宿の雑居ビルでした

創業から約14年、新サービスを生み出し続ける理由

そこからの約14年、Wanoは一貫して日本のエンタメをITの力で盛り上げるためにさまざまなサービスを生み出し続けてきました。成功したものもあれば、失敗したものも数知れずです。

谷本:
「例えば、『BTN』は当時流行っていたSNSのアプリで、日本中のクラブやライブ情報を一覧でき、ユーザーがシェアできるものでした。しかし収益化の難しさと他のSNSが台頭してきたことにより、2年ほどでクローズしました。」

野田:
「アーティスト個人のサブスクモデルで、好きなレーベルやアーティストが今までリリースした楽曲のアーカイブや、新譜・限定楽曲も月額聴き放題で楽しむことが出来る『ターミナル』というサービスもありました。いわばオンラインサロンのようなものですが、今では当たり前になったサブスクやオンラインサロンも、このサービスをリリースした2014年当時、日本ではほとんど浸透していませんでした。アメリカで流行していたこともありリリースしましたが、少し早かったな、という印象です。業界が変わっていったり、一般に普及するのは時間がかかると学びました。」

一方で成功したサービスの代表といえば、『TuneCore Japan』。アメリカで少しずつ浸透していたアーティスト向けの音楽流通サービス『TuneCore』を、日本向けに展開するため、Wanoが0から開発したサービスです。Apple MusicやSpotifyをはじめ、国内外の音楽配信プラットフォームへの楽曲配信・管理を一括で行うことができるツールとして、今では多くのアーティストやレーベルが利用しています。2021年12月時点では配信楽曲が100万曲を超え、55の配信ストア、世界185ヶ国に作品を届けることが可能になりました。

野田:
「誰でも簡単に自分の楽曲を世界に向けて配信することは今では当たり前になりましたが、ここまでの道のりは険しかった。しかし、日本の楽曲を世界に届けるというゴールに向けてチームが取り組み続けたことで、ようやく思い描いていたようなスタートラインに立ちました。
人々が音楽を発見する方法を変え、大手のレーベルに属さない、個人で活動するアーティストたちが活躍できる道が開かれたことは、クリエイターが個人活動でフェアな収益を得られるための大きな一歩だと思っています。」

これまでの歴史からみても、Wanoは音楽や動画のサービスを作っている印象が強いと思いますが、実は音楽や動画のシーンに限ってサービスを作ると決めているわけではありません。

田村:
「2021年にローンチした『そらをあおぐ』というプレミアムキャンプめしセットも、クリエイター支援事業の一つです。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、飲食店や食材を提供する生産者は甚大な影響を受けました。日本の多様な食文化を創り、支える、料理人や生産者の方々がこれからも輝けるステージを創りたいという思いがあり、コロナ禍での料理人や生産者の問題を目の前にして、自分たちができることはないか、と考えていたんです。2020年11月頃に、キャンプに行く機会が増えたという話を偶然していたときにひらめいたのが、プレミアムキャンプめしセットです。」

野田:
「14年が経っても我々にはまだまだ成し遂げるべきことがあると思っています。Wanoという社名の由来にもなった“日本のカルチャーを世界に発信する”ために、さまざまな領域でチャレンジをしていく予定です。」

TuneCore Japan立ち上げ
※TuneCore Japanの設計を考える、開発チーム

Wanoの事業開発における共通項とは?

野田:
「クリエイターを支援してエンタメ業界を盛り上げるためにサービスをつくり続けることは、Wanoの企業成長のためにも欠かせないことです。手掛ける事業は、新規性の高さが特徴的かなと思います。その理由は単純で、我々のサービスで業界の常識を変えたいから。既にあるようなサービスを強化しても、根本は変わらないので。」

谷本:
「学生時代は、音楽が好きでよくクラブにいました。儲かっていないけど、すごくかっこいいインディーズ音楽をやっている人がたくさんいて、この人たちがもっと活躍できる環境やサービスができたらいいなという思いがずっとあり、起業のきっかけになっています。
Wanoにとって、一番大切なのはクリエイターの成功。我々は伴走するパートナーだと考えているからこそ、クリエイターの気持ちを考えない、お金儲けだけに走るようなサービスは作らないと決めています。」

野田:
「クリエイターファーストの考え方はずっと変わらないですね。そもそもWanoが自己資金100%での経営を続けているのも、収益化だけを指標にしたくないから。とはいえ、会社もサービスも成長し続けなければ一過性のもので終わってしまうので、中長期的に考えることが多くなり、サービスの持続可能性も意識しています。」

田村:
「Wanoらしいサービスは、形式的な議論から生まれることもありますが、人との会話から、ふとした時に生まれることが多いです。一人、もしくは同じチーム内で長い時間考えていてもなかなかいいアイディアは出てこない。普段からさまざまな情報をインプットすることは最低限必要ですが、アイディアの種はクリエイターとのコミュニケーションから生まれてくるんです。プレミアムキャンプめしセットの『そらをあおぐ』も、実際に料理人や生産者との方々との会話から生まれました。」

そらをあおぐ
※料理人や生産者との方々との会話から生まれた『そらをあおぐ』

Wanoをもっと成長させるために、3人が考えること。

14年にわたり、全力で走り抜いてきたWanoの経営メンバーである野田、谷本、田村は、“今がWanoのターニングポイント”と言います。

田村:
「ここ数年、ベンチャーらしいスピード感が減っているなと感じる時があります。軌道に乗ったサービスも出てきて、無意識に会社として守りに入っているのかも。」

谷本:
「スピード感が減ったというか、やらないといけないことが増えたよね。Webサービスでなくアプリを作ったり、動画を扱ったりだとどうしても開発に時間がかかるから、気軽にサービスを作れなくなってきている。Wanoとしてやりたいことは変わっていないけれど、会社規模も大きくなったし、人々がサービスに求めるものや開発の仕方も変わってきているので、昔のやり方が通用しなくなってきているなと感じます。まさに今がターニングポイント。」

野田:
「確かに、やりたいことは創業から一貫しているし、まだまだやりたいことはたくさんあります。自分たちがやりたいサービスを実現していくために、サービスを立ち上げるまでのプロセスの最適化など、組織の仕組みづくりもしっかりしていきたいね。
あとは、WanoがこれまでつくってきたWanoらしさ、みんな自由に意見を出して、のびのび仕事ができる環境を維持しながら、一人ひとりがいいサービスについて考え続けることが大切。」

田村:
「初めは数人で、オフィスもボロボロで…というところからスタートしましたが、人数も増えて、恵比寿にちゃんとしたオフィスを構えるまで成長しました。この安定した状態がスタンダードになってきたけれど、Wanoはまだ14年しか経っていません。改めて、社員全員が“自分たちが業界を変える”という熱い気持ちを持てたらと思います。Wanoはアイディアが実現できる会社です。出てきたアイディアに対して『役員を説得させる資料一式そろえてくれ』なんてことはないし、やってみようよ!という気持ちが大きいです。こんなサービスがやりたいとか、こんなアイディアがあるという人がもっと増えると嬉しいし、みんなでいいサービスを作っていきたいです。」

現在のWanoメンバー
※Wanoが採用で一番重要視するのは、クリエイターを支援したいという気持ちです

これからのWanoが注力したいこと

最後に、今後のビジョンについて伺いました。

野田:
「引き続き、エンタメを盛り上げられるようなサービスを作り続けることに変わりはありません。クリエイターが活躍できるようにサービスを提供していきます。国内のエンタメ業界は収縮してきていて、しかも、その動きは加速しつつあります。でも、エンタメが元気にならないと楽しくないじゃないですか。エンタメが元気を取り戻す手助けができるようなサービスを生み出し続けたいですね。」

田村:
「もっともっとWanoらしい事業をやりたいです。これまで以上に社会課題を解決したり、誰かの活躍できる世界を広げたり、Wanoってこんなおもしろいことをことしているんだ、という姿勢を社内外に見せていこうと思っています。」

野田:
「サービスの中では、映像の配信サービスである『Video Kicks』をもっと大きく普及させたいです。『Video Kicks』は現在『TuneCore Japan』上でミュージックビデオを配信するための一つのサービスですが、将来的にはミュージックビデオだけでなくすべての映像クリエイターが使用できるサービスを目指しています。
昔から業界の課題ではあるのですが、CDが売れてもなかなかDVDが売れないなど、とにかく映像は収益化しにくい。映像クリエイターたちが苦労して映像を作ってもお金にならない、という状況を変えていきたいと思っています。
試行錯誤が続いていますが、『Video Kicks』利用者と配信側両方にメリットが感じられる仕組みを整えて、『TuneCore Japan』のように誰もが映像を全世界に配信するのが当たり前の時代を作りたいです。」

Wanoらしく業界の常識を打ち破り、クリエイターが活躍できる場所を増やすために。クリエイターの伴走者として、これからも走り続けるWanoにご期待ください。

現在のWanoオフィス

※時計だけは以前と同じ、現在のオフィス@恵比寿