COLUMN 2022.4.4

「誰もがデジタル上で楽曲を収益化できる」サービスを手掛けたWanoが、次に目指すのは「誰もがデジタル上で映像作品を収益化できる」世界

クリエイターをITの力で支援する――。まだまだCDによる音楽流通が主流だった2012年に、いち早くTuneCore Japanをリリースし、誰もがデジタル上で楽曲配信を行うきっかけを作ったWanoが、映像でも同じことを実現しようと展開するのがVideo Kicksです。

CDやレコードによる音楽流通がメインストリームだった時代、大手レーベルに所属しない音楽アーティストにとって、自分の作品を世に出したり、収益を得たりすることは易しいことではありませんでした。一方、映像クリエイターは今なお同じハードルを感じています。YouTubeでの動画配信は民主化が進んでいますが、より作品要素が強い映画やドラマ等については、なかなかそのエコシステムが醸成されていません。例えば、ほとんどの自主制作映画は公開までこぎ着けることも難しく、収益化の道がないのが現状です。

一方で変わりつつある動きもあります。2017年に国内及び海外の映画賞を数々受賞した映画「カメラを止めるな!」は、もともと予算300万円のインディーズ映画でしたが、SNSで話題になったことから、一気に全国で公開されました。また、NetflixやHuluなど、映画館以外で公開される映像作品も増えています。

創業当時から視野に入れていた、映像クリエイター支援サービス

もともと日本のエンタメを盛り上げたいというビジョンがあったWanoの創業者たちにとって、映像クリエイターの支援サービスはいつか成功させたい夢です。

「TuneCore Japanを手がけていることから音楽の会社と思われることも多いのですが、実はWanoをはじめた時から、映像クリエイターもアーティストも等しく支援したい対象だと捉えていました。クリエイター、つまり自分で作品を作る人の夢を、ITの力で支援するのがWanoの存在意義です。日本のエンタメを元気にしたいという思いもあり、総合芸術である “映像”は、ずっと何かできないかなと考えていた分野でした。」と、代表の野田は話します。

一方、映像は音楽よりも、データも重く取り扱いが難しいという側面があります。そのため、先に音楽サービスであるTuneCore Japanの開発や展開を先に行い、それがある程度スケール化した2018年に、TuneCore Japanの派生サービスとしてVideo Kicksをローンチ。まずは尺の短いミュージックビデオについて、Apple Music、GYAO!、LINE MUSICなどのビデオ配信ストアで配信/販売できる仕組みを作りました。

「今はミュージックビデオに特化したサービスですが、それはTuneCore Japanでユーザーと接点が既にあり、そのほうが早いと思ったからです。今後は、映画・ドラマなどにも広げていく予定です。」

実際に、2019年には、and pictures株式会社(※当時はグループ傘下にあった映画制作会社)で制作した映画「栞」や「青の帰り道」、ドラマ「逃亡料理人ワタナベ」などをHuluにて配信するなど、実験的な取り組みも行っています。

※Wano株式会社代表 野田威一郎

サブスクサービスにて存在感を増す、ミュージックビデオ

サブスクリプションサービス経由で音楽を聴くというのはすでに当たり前になっていますが、実はミュージックビデオについても同じような動きがあります。

日本レコード協会の発表によると、ミュージックビデオのサブスクリプションによる収益は、2018年から比較して2020年には326%成長。また、ボリューム感としても、YouTubeなどの広告収入の約1/2にまで迫っているのです。配信ストアも順調に増えており、Video Kicksがサービスを開始した2018年には配信先として4ストアしかありませんでしたが、現在は13ストアにまで伸びています。

実際に、Apple Music 2021年トップソング100に楽曲が入るアーティスト(44組)のうち、なんと9割を超えるアーティスト(40組)が、ミュージックビデオをサブスクリプションサービスに配信していることがわかっています。

Video Kicksチームにてセールスマネジャーを務める宮應は、ここ1、2年での変化を感じていると言います。

「YouTubeが出てくる前、MV(ミュージックビデオ)は“宣伝用の素材”だったから、なかなかVideo Kicksを理解してもらえなかったんです。でも最近では、映像コンテンツに対して、“YouTubeに出すのはアーティスト活動にとって最低限必要なこと、他にも出せるところには出しておこう”と意識が変わってきていますね。複数の配信ストアに登録する手間を考えたら、Video Kicksを使って一括配信できるのは楽なので、問い合わせも増えました。」

そして、Video Kicksが今テストを進めているのが、長尺ライブ配信。これまではライブ映像を収益化するにはDVD化くらいしか選択肢がありませんでしたが、この機能が実装されれば、長尺のライブ映像を各配信ストアにて配信することが可能になります。動画視聴行動が変化し、DVDで見る機会が減り、スマホやPCで見ることが当たり前になった今、ライブ映像についてもサブスクリプションサービス経由でダウンロードしたり、ストリーミングすることが増えると考えられます。

※Video Kicksセールスマネジャーの宮應

リリースから3年、見えてきたハードルと今後の展開について

サービスのローンチから3年。今ではVideo Kicksを使って配信しているミュージックビデオがLINE MUSICやApple Musicのランキング上位に入ることも増えるなど、少しずつサービスを成長させてきたVideo Kicksチーム。その一方で、音楽にはないハードルも見えてきました。

それは、映像作品にはより多くのステークホルダーが存在し、その分、権利関係も複雑になっていることです。また、放送業界の商流は音楽業界と異なるため、クリエイターへの還元方法も変わってくる可能性があります。
2022年年始のインタビューで、野田は「今年はVideo Kicksがクリエイターにどう貢献するか、その仕組みを突き詰めたい」と答えました。

「監督、編集、出演者など、映像制作に関わる人は多いのですが、現時点では、支援したい対象を絞っていないし、絞る気もないです。とにかく、映像クリエイターたちが苦労して映像を作ってもお金にならない、という状況を変えていくためにどうしたらいいかというのを、いろんな方向から考えています。

試行錯誤が続いていますが、『Video Kicks』利用者と配信側両方にメリットが感じられる仕組みを整えて、『TuneCore Japan』のように誰もが映像を全世界に配信するのが当たり前の時代を作りたいです。」

※映画館でMV公開を行うなど、新しい取り組みも行っている

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